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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)4366号 判決

原告 受田孝清

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 垰野兪

同 亀丸龍一

同 秋本英男

同 弘中徹

右垰野兪訴訟復代理人弁護士 冨田秀実

被告 読売興業株式会社

右代表者代表取締役 務臺光雄

右訴訟代理人弁護士 山川洋一郎

同 鈴木五十三

主文

一  原告らの請求は、いずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、別紙記載の謝罪広告文を被告の発行する読売新聞西部本社発行朝刊の社会面中央部に五段ぬきで、「謝罪広告」の四文字を初号活字で、被告の社名を一号活字で、「故受田代議士が預金仲介は誤り」の文字を黒地白抜き五段ぬき見出しで、その他の部分は五号活字をもって一回掲載せよ。

2  被告は、原告らに対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する昭和五六年五月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  2についての仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告受田孝清は、元代議士故受田新吉(以下「受田代議士」という。)の長男で、国家公務員であり、原告受田兵吉は、受田代議士の弟で、山口県大島町町議会議員であり、民社党に所属して政治活動をしている者である。

2  被告は、読売新聞西部本社と称し、読売新聞西部版を編集発行している会社である。

3  被告は、昭和五五年七月一八日、読売新聞西部版の朝刊社会面中央部に訴外株式会社山口銀行(以下「山口銀行」という。)不正融資事件に関する記事として、五段を用いて、黒地に白文字をもって白いかぎ括弧の中に、「故受田代議士が預金仲介」と、その傍らに黒文字をもって「三億五〇〇〇万円」「不動産業者、証言」と記載した見出しを掲げ、前文にその記事の要旨として「証人に立った松岡さんは『個人的に親しい山口二区選出の故受田新吉代議士(民社党)に山口銀行への預金を頼まれた』と述べた。この事件では、大口預金者導入の仲介に不正融資の受け手自身や、事件の舞台になった銀行支店長、多数の金融ブローカーらが暗躍している事実がわかっているが、政治家の名前が出たのは初めて。証言が事実なら、事件は意外な方向に発展しそうで裁判への影響は大きい。」との記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。

4  本件記事は、山口銀行徳山東支店を舞台として総額四〇数億円に上る不正な預金及び融資が行われ、同支店長外数名の銀行員や金融ブローカーが業務上横領等の罪で起訴されたと報道された事件に関連して、訴外松岡源之眞が山口銀行に対し、総額金三億五〇〇〇万円の定期預金債権を有するとして、その払戻しを求めた訴訟においての原告本人尋問の模様を報道したものである。

被告は、右不正融資事件に関して非常に熱心に取材活動を行い、被告発行の新聞における右事件の記事は、豊富かつ細部にまでわたるものであった。

5  右3及び4記載の背景の下において、被告発行の新聞に掲載された本件記事は、これを読む者をして、受田代議士が山口銀行の不正融資事件に関与して預金の仲介をしたことが確定的であるとの印象を与えるものである。また、本件記事中の見出しに用いられた「仲介」という語は、両者の間に立って相互の意思を伝達し、調整して合致させることを意味し、この場合、何がしかの謝礼が与えられることも社会人の常識として統一された概念であるから、本件記事は、受田代議士が右預金に関連して、謝礼を受け取ったことをも推測させるものである。さらに、本件記事の前文中の「この事件では、大口預金者導入の仲介に、不正融資の受け手自身や、事件の舞台になった銀行支店長、多数の金融ブローカーらが暗躍している事実がわかっているが、政治家の名前が出たのは初めて。」との部分は、受田代議士を右の金融ブローカーらと同列に扱うものであり、見出しの表現と相俟って、読者に受田代議士が右不正融資事件に不明朗な形で関与したことを強く印象づけるものである。

6  受田代議士は、昭和二二年戦後の第二回衆議院議員選挙に山口二区から若冠三六歳で立候補して以来、連続して、一二回当選し、昭和五四年の国会解散までの三二年間衆議院議員として在職し、その間永年在職議員として表彰され、勲一等旭日大綬章を受けた。また、右の衆議院議員選挙においては、自己の不正は勿論、選挙運動全般にわたっても、一回の形式犯罪すら犯さないという清潔な治政活動と選挙運動を行ってきたものであり、国会においては、民社党の創立に参画し、以後、同党に属してきたが、その活動は、党派を越え、また政界においては、党派を越えた信頼を受けており、さらに選挙区の県民からも絶大な信頼を得て、現時における政治の姿勢を正しい方向に導くものとして政界における貴重な存在であったが、昭和五四年九月二一日死亡した。

7  本件記事は、5記載のとおり、受田代議士が被告の発行する新聞の関心を集めている不正事件に関与し、しかも謝礼を受け取ったとの印象を与えるもので、6記載の高名かつ清潔な政治家としての受田代議士の有する名声と名誉を甚だしく毀損するものである。

8  被告の編集発行担当者である取締役編集局長渡井真及び取材記者は、山口銀行不正融資事件に関連して、多くの預金が不正な方法で行われていることを熟知していたのであるから、代議士の地位にあった者がその預金の仲介者であったと記載する本件記事が、読者をして受田代議士がこの件において、裏で工作し、相当の礼金も受け取っていたのではないかとの気持を抱かせることを予知していたか又は予知すべきであった。そして、本件記事は、被告の従業員である取材記者が被告の業務として執筆したものであり、これを被告の右取締役編集局長渡井が編集して被告発行の新聞記事として報道したものであるから、右一連の行為による名誉毀損は被告自身の不法行為というべきである。

9  以上のとおり、受田代議士は、被告の故意又は過失によって、その有していた名誉を毀損された。死者が名誉を毀損された場合の救済措置については、民法には直接の規定はないが、人が生前において有していた人格権又は人格的価値は、その死後も存続し、法律上これを保護するに値するものであって、それが侵害されたときは、その回復を図ることが必要である。この場合、死者の近親者のうち、その名誉毀損行為によって最も痛手を受け、憤りを覚える者が故人に代わって、その名誉回復措置を求めることができるものと解すべきである。

ところで、原告らは、受田代議士の長男又は弟として、被告による受田代議士の人格価値の侵害によって最も痛手を受け、憤りを覚えるものであるから、故人に代わって毀損された名誉を回復するための救済措置を求めることができ、その方法としては、請求の趣旨1記載の謝罪広告を求めることが最も効果的である。

10  さらに、被告は、本件記事を掲載することによって受田代議士の名誉のみならず、原告らの名誉をも毀損したものである。

すなわち、原告らは、受田家の一員として、受田代議士が国家の発展に尽くした政治家であることを受田家の名誉と思い、受田代議士を一族の象徴と考えてきた。そして、原告受田孝清は、長男として、受田代議士の生活、政治信条を膚で感じながら成長し、成人になってからは、その私人及び公人としての双方の生き方を手本とし、またその真摯な生き方に負けまいと、公務員としての職務に専念すると共に、人に後ろ指を指されるような生き方はしまいと誓って生きてきた。つまり、受田代議士は同原告の生き方の指針、心の支柱であって、その社会的評価、名誉は、同原告そのものの名誉となっていたものである。また、原告受田兵吉は、受田代議士の弟として、受田代議士が衆議院議員として国会で活動をする間、選挙区である山口二区において、同代議士に代わって選挙民の世話をすると共に、六期にわたって大島町町議会議員として、また同議会副議長として、受田代議士の生活信条と政治信条を選挙区において実践する政治活動をしてきたものであり、受田代議士の受ける社会的評価、名誉は、同原告自身の名誉だと思っており、また選挙民においても、受田代議士と同原告を一体のものとして評価し、信頼していたものである。

したがって、被告による受田代議士に対する名誉毀損は同時に、原告らに対する直接の名誉毀損となるものであって、本件記事が掲載された結果、原告らは、受田代議士の選挙区である山口二区のかつての支持者、後援者から指弾を受け、或いは疑いの眼差しを受けるなどし、今まで支持者であった人達が原告らから去っていくなど原告らの信頼は損われ、原告らの社会生活や政治活動に重大な支障を与え、原告らの受田代議士に対する敬愛追慕の情及び社会的、政治的行動の基礎となる人格的利益が侵害されたものである。

原告らが受けた右名誉毀損に対する救済方法としては、その名誉を回復するために被告が請求の趣旨1記載の謝罪広告をすることが適切であり、また、その受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、少なくとも原告らそれぞれにつき金五〇〇万円とするのが相当である。

よって、原告らは、被告に対し、受田代議士の名誉が毀損されたことに基づいて、民法七〇九条、七二三条により、請求の趣旨1記載の謝罪広告の掲載を求め、また、原告らの名誉が毀損されたことに基づいて、同法七〇九条、七一〇条、七二三条により、請求の趣旨1記載の謝罪広告の掲載と原告ら各自に損害金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年五月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、知らない。

2  請求原因2から4までの事実は、認める。ただし、同3のうち原告ら主張の前文が付されていたのは原告ら主張の朝刊のうちの一部である。

3  請求原因5の事実は、否認する。本件見出しは、原告の主張するように、受田代議士が山口銀行不正融資事件に関与したと述べているものではなく、単に、受田代議士が訴外松岡源之眞に対し山口銀行に預金をしてやってくれと述べたとの右訴外人の法廷での供述を報道したにすぎず、何ら受田代議士の政治家としての名誉を毀損するものではない。また、仲介の語は、単に、両者の間に立った行為を意味するにとどまり、その行為の結果に対して礼金や謝礼が支払われることを意味しない。さらに、原告らの主張する前文の表現は、不正預金の当事者の口から当該預金のきっかけとして政治家である受田代議士の名前が出たことを、山口銀行をめぐる前記事件の背景にある銀行間の激烈な預金獲得競争の観点から、重要な事実と判断してそのとおりに報じたものにすぎない。

4  請求原因6の事実は、知らない。

5  請求原因7の事実は否認する。

6  請求原因8の事実中、本件記事が被告の従業員である取材記者によって被告の業務として執筆され、被告の取締役編集局長渡井が編集して被告発行の新聞記事として報道されたものであることは認めるが、その余は否認する。

7請求原因9の事実は知らない。故人としての受田代議士に対する名誉毀損がそれ自体として不法行為を構成し、それに基づいて原告らが謝罪広告を請求できるとの原告らの主張は、実定法上の根拠を欠くものであって失当というべきである。

6  請求原因10のうち原告らに関する事実は知らない。

三  抗弁

仮に、本件記事が受田代議士又は原告らの名誉を毀損する内容を有するものであったとしても、それは、裁判手続の報道を内容とするものであるから、その手続を正確に報道する限り、名誉毀損による不法行為は成立しないものというべきである。ところで、本件記事は、訴外松岡源之眞が昭和五五年七月一七日に、山口地裁下関支部において、民事訴訟の原告本人として原告代理人の質問に対して供述した内容を正確に報道したものであり、その供述内容は、反対尋問においても変わるところはなく、その他右供述が一見して虚偽であると認められる状況にはなかったものであるから、被告に本件記事の掲載についての不法行為責任はないものといわなければならない。

四  抗弁に対する認否

被告の抗弁事実中、本件記事が裁判手続の内容を報道するものであることは認めるが、それが正確であるとの点は否認する。すなわち、裁判手続の正確な報道が不法行為とならないことは、被告の所論のとおりであるが、本件記事は、その正確性の要件を欠く。記事の正確性は、紙面に表わされた見出し、前文、本文等から読者が一般的に受け止める意味内容をもって判断しなければならないと解すべきであるところ、本件記事の次に記載されている本文自体は、裁判手続の内容の正確な報道であると言い得るとしても、本件記事を全体として見るとき、受田代議士が預金の仲介者として不正融資事件にかかわり、不法な利益を得たとの強い疑惑を抱かせるものであって、正確な報道であるということはできない。

第三証拠《省略》

理由

一  被告が読売新聞西部本社と称し、読売新聞西部版を編集発行している会社であること及び昭和五五年七月一八日発行の読売新聞西部版に本件記事が掲載されたことは、当事者間に争いがない。

また、《証拠省略》によれば、原告らが本件記事によってその名誉が毀損されたと主張する受田代議士が、本件記事の掲載の前である昭和五四年九月二一日に死亡していることが認められる。

二  そこで、原告らは、本件記事によって、死者である受田代議士が生前に有した名誉が毀損されたので、同代議士に代わって、その毀損された名誉を回復するための救済措置を求めると主張するので、まず、そのような請求が許されるかについて判断する。

原告らが、受田代議士の名誉が毀損されたことに基づき、その回復を求める根拠は、死者には、その死後も生前に有した名誉ないし人格権が存続し、これを保護する必要があり、かつ、刑法第二三〇条第二項は、死者の名誉を毀損した場合においても、それが処罰の対象となることを前提として規定をしており、また、著作権法第一一六条は、著作者の死後においても、その著作者人格権の侵害に対しては、その遺族がこれに対する救済措置を求めることができる旨を規定しているので、その名誉が毀損されたときは、近親者のうち、その毀損により痛手を受け、憤りを覚える者が回復措置を求めることができるというにある。しかし、右の根拠のうち、死者にもその生前において得ていた名誉又は人格権が死後も存続する場合があるとの点は首肯できるとしても、右のような特定の法領域において死者の名誉ないし人格権が保護の対象となっているからといって、そのことをもって直ちにこの点について特段の規定のない一般私法においても不法行為を構成すると解することはできないし、それが侵害された場合に何故に死者に代わって一定の者がその回復措置を求め得るかについては、実定法上の根拠を欠くものといわねばならない。特に、「近親者のうち、名誉毀損により痛手を受け、憤りを覚える」という要件を備える者が死者に代わってその名誉回復を求めることができるとする点は、結局、その回復を求める者自身が死者に対する名誉毀損行為によってその権利を侵害されたことを示すものであって、現行の一般私法の下においても、同一の目的を達することができ、あえて、この場合に死者の名誉を独立の保護法益とし、他の実定法の規定を類推適用してまで、これに対する毀損に対する回復措置を認める必要はないと考えられる。

してみれば、故人である受田代議士の名誉が毀損されたことに基づいて、その名誉の回復を求める原告らの請求は、その法律上の根拠を欠き他の点を判断するまでもなく、失当であるといわなければならない。

三  次に、原告らは、受田代議士に対する被告の名誉毀損により、原告らが直接その名誉を毀損されたと主張し、その回復措置と、その受けた精神的苦痛についての慰謝を求めるのでこの点について判断する。

右二において判断したところからも明らかなように、死者に対する名誉毀損は、直ちに一般私法上の不法行為となるものではないが、死者に対する名誉毀損行為により原告らが、直接、自らの名誉を毀損され、又は死者に対する原告らの敬愛追慕の情が傷つけられ、精神的苦痛を被ったときは、原告らに対する不法行為として一般私法上の救済の対象となり得ることはいうまでもない。

ところで、前示当事者間に争いのない事実並びに《証拠省略》を総合すると、昭和五四年一一月ころ、山口銀行徳山東支店において、預金について正規の会計処理を行わないままこれを他へ融資する事件が発覚し、同支店職員らが多額の金員を横領した旨の嫌疑を受け、業務上横領等の罪により起訴されたことなどについて、被告は、これを銀行による預金獲得競争の行きすぎの問題として取り上げ、これを山口銀行不正融資事件の名称を付して被告発行の読売新聞西部版に事件の推移を逐次詳細に報道したこと、この事件に関連して、正規の会計処理がされなかったとして山口銀行からその払戻しを拒絶された預金者からは、同銀行に対して、預金の払戻しを求める訴えが提起され、その預金者のなかに訴外松岡源之眞がいたこと、同訴外人は、昭和五五年七月一七日、山口地裁下関支部の法廷において原告本人として、同訴外人が山口銀行に預金するに先立ち、同訴外人とかねてからの知合いであった受田代議士から同銀行に預金するよう依頼された旨を述べたこと、被告は、前記取材方針にしたがい、右訴外松岡源之眞の法廷における供述を被告発行の昭和五五年七月一八日付読売新聞西部版の朝刊において報道したが、その記載の内容は、本件記事及びそれに続く本文記事のとおりであったこと、同本文記事の中には「私が東京の政治大学校の評議員をしていた関係で、二、三年前、当時総長だった受田新吉さんと親しく『山銀に預金してくれんか』と頼まれた。その後、銀行から自宅に何度も預金勧誘の電話があったり、私の留守中『山口銀行』と書いたウイスキーや干しエビを手土産に置いていくなど、勧誘に来たことがあるが、受田さんが私を紹介したからだ、と思い預金を決心した」と述べた。また、「受田さんは、私が『都内の支店にしましょうか』というと『東京じゃまずい、下関市の本店か、山口県内の支店にやってくれ』といわれた」と述べた旨の記載があったこと、本件記事の見出しに用いられた仲介の語は、商行為に関して用いられるような場合には、それが有償であることが原則と解されるとしても、その他の場合においてもすべてが有償を意味するとは解されず、特に社会的に影響力のあるいわゆる有力者の行う仲介については、その影響力を利用して、二者間の調整を行うことを意味する場合が多く、有償である旨の意味は必ずしも有しないこと、受田代議士は、昭和二二年四月に衆議院議員選挙に当選して以来、連続して、昭和五四年まで衆議院議員の地位にあり、その間、昭和三五年には、民社党の設立に参画し、昭和四五年には、衆議院の交通対策特別委員長、昭和五二年には、民社党政審・内閣部会長となり、昭和五四年九月二一日死亡に伴って、正三位に叙せられ、勲一等旭日大綬章を賜わったこと、原告受田孝清は、受田代議士の長男であって、建設省に勤務する公務員であり、受田代議士の社会行動、政治活動については、これを誇りに思っていること、原告受田兵吉は、故人の弟であって、受田代議士と同じ民社党に属し、同代議士の選挙区であった山口県大島町の町議会議員であり、同故人の子息の面倒をみる等、私生活において密接な関係があったこと、受田代議士の選挙に際しては、事務長を勤める等政治活動においても深い関係にあり、同代議士を政治家として尊敬していたことが認められる。

そこで、右認定の事実の下において、本件記事が原告らの名誉を毀損するものであるかについてみるに、まず、本件記事のうち見出し部分は、被告がそれまで特に重点を置いて取材し、報道し、読者の関心を集めてきたいわゆる山口銀行不正融資事件に関連した預金について、受田代議士が仲介したと不動産業者が証言したことを報道するものであるが、それは、単に、同代議士がその地元の山口銀行のために、預金者を紹介する労をとったことを示すにとどまり、それが有償を意味するということはできない。また、右見出し部分の次に記載されている前文の要旨は、まず、訴外松岡源之眞を原告、山口銀行を被告とするいわゆる山口銀行不正融資事件に関連する預金の払戻し請求訴訟において、右訴外人が原告本人として、個人的に親しい受田代議士から山口銀行への預金を頼まれたと供述したこと、右不正融資事件に関係して政治家の名前が出たことは初めてであること及びもし右訴外人の供述が真実であるならば、事件は意外な方向へ発展するかも知れず、そうとすれば裁判への影響が大きい旨を記載しているものということができる。この記載の意味は必ずしも明確ではないが、通常の文章の解釈によれば、この裁判とは、訴外松岡源之眞が山口銀行に対して提起した前記民事訴訟を意味し、同訴外人の山口銀行に対する預金が著名な政治家の紹介によってされたものであり、それが山口銀行を当事者とする預金であるとして、右訴外人に有利な判断がされる可能性があることを示したものと解される。また、「この事件では、大口預金者導入の仲介に、不正融資の受け手自身や、事件の舞台になった銀行支店長、多数の金融ブローカーらが暗躍している事実がわかっているが、政治家の名前が出たのは初めて。」との部分は、受田代議士を金融ブローカーらと同列に扱うものとも、同代議士が右不正融資事件に不明朗な形で関与したことを意味するものと解することはできない。

以上のとおり、本件記事は、その個々の記載からみるとき、受田代議士の名誉を毀損する内容を有するものであると認めることはできないし、本件記事を全体としてみても、右の結論は変わらない。さらに、本件記事を前記本文記事と対比すれば、右の結論はなお一層明らかである。

してみれば、受田代議士の名誉を毀損されたことをもって、原告らの名誉も毀損されたことを理由とする本件訴えにおいては、既に、その前提とする事実が認められないから、その他の点を判断するまでもなく原告らの請求は失当であるといわなければならない。

四  以上のとおり、原告らの請求のうち、本件記事により、受田代議士の名誉が毀損されたとしてその回復措置を求める請求については、原告らにその請求をする権利があると認めることができず、また、原告ら自身が本件記事により名誉が毀損されたのでその回復措置及び慰謝料を求める請求については、名誉毀損の事実を認めることができないので、原告らの請求は、いずれも理由がないといわざるを得ない。よって、原告らの請求はいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 河野信夫 高橋徹)

〈以下省略〉

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